新型コロナの感染が広がり始めた頃、世界がこの先どうなるのか、誰にも分からない状況が続いていました。
街から人の姿が減り、移動や外出も控えられるようになるなか、飲食業や観光業など、人の移動や外出に支えられていた業界が真っ先に大きな影響を受けました。
私自身も先行きに不安を感じながら株式相場を眺めていたところ、以前利用したことのあるホテルを運営する会社が目に留まりました。
そのホテルは利用者からの評判がよく、私が宿泊したときの印象も良いものでした。会社の業績を調べると、それまで利益もしっかり出していました。
会社やサービスに問題があるようには見えません。むしろ、よい宿泊施設を運営している会社だと思いました。
しかし、どれほど評判のよいホテルであっても、旅行や出張をする人そのものが減れば、業績への影響は避けられません。
「この状況が続けば、業績は悪化し、株価も下がるのではないか」
そう考えた私は、この会社の株価下落を見込んで空売りを仕掛けました。
空売りとは、証券会社から借りた株を先に売り、株価が下がったところで買い戻すことで利益を狙う取引です。予想どおり株価が下がれば利益になりますが、反対に上昇すれば損失が発生します。
現物株であれば、基本的には保有している資金の範囲で投資します。しかし、信用取引では手元の資金以上の取引もできます。
私は株価が下がるという自分の予想に自信を持ち、普段よりも少し大きな金額を動かしました。
感染拡大によって観光業界が苦境に立たされることは、誰の目にも明らかに思えました。実際にホテルの利用者が減れば、会社の売上や利益にも影響が出るはずです。
自分なりに理由を考えたうえでの取引であり、根拠のない賭けをしているつもりはありませんでした。
ところが、株価は見事に私の思惑とは反対の方向へ動きました。
下落を予想して売った株が上昇し、株価が上がるほど損失も膨らんでいきます。さらに、信用取引で少し大きめに取引していたことが裏目に出ました。
私は数日ほどで買い戻し、損失を確定しました。わずか数日の取引で、月給に近い金額が一瞬にして消えてしまったように感じました。
観光業界が厳しくなるという見通しが、すべて間違っていたわけではなかったと思います。
しかし、業績が悪化することと、自分が空売りをした直後に株価が下がることは同じではありません。市場が悪材料をすでに織り込んでいれば、状況が悪くても株価が上がることがあります。将来への期待や需給によっても、短期的な株価は動きます。
私は会社を調べ、自分なりの仮説を立てたことで、相場の動きまで読めたような気になっていました。
生半可な想像だけで、短期的な値動きに勝つことはできない。そのことを、損失によって思い知らされました。
実は、これが私にとって初めての空売りではありません。
それ以前にも一度、空売りで小さな損失を出した経験がありました。しかし、そのときは大きな痛手ではなかったため、十分な教訓にできていなかったのだと思います。
最初の小さなけがから学ばないまま、再び同じような取引に手を出し、今度は大きなけがをしました。
この経験を境に、私は短期的な売買益を狙った信用取引をしていません。
信用取引そのものが悪いわけではありません。仕組みを理解し、損失を管理しながら活用している人もいます。ただ、短期的な値動きを予想し、信用取引で大きな金額を動かす方法は、自分には合わないと分かりました。
私は、企業の成長や利益の積み重ねを信じて、現物株を長く保有する方が性格に合っています。
どの投資方法が優れているかだけでなく、自分が冷静に続けられる方法かどうかを知ることも、資産形成には大切です。
この空売りで失ったものは小さくありませんでしたが、自分に合わない投資方法から離れるきっかけになりました。
今回の格言
「名人になるより素人らしく」
自分なりに会社や業界を調べたことで、短期的な株価まで読めたような気になっていました。経験や知識を過信せず、自分が冷静に続けられる方法を選ぶことが、資産形成には大切なのだと思います。
※本記事は、筆者自身の資産形成に関する経験や考えを記録したものであり、投資や特定の金融商品の購入を推奨・勧誘するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

